目次
はじめに
団塊の世代の方が後期高齢者になる2025年を前に、今後の介護予防分野に大きな影響を及ぼすと考えられる用語が注目されています。
2014年に日本老年医学会は、英語圏で「frailty」と表現される言葉を「フレイル」と定め、広く周知する活動が行われるようになりました。
同じく2014年に、アジアのサルコペニアワーキンググループより、アジア人を対象としたサルコペニアの診断基準が報告されました。
そのような中で、2016年10月には国際疾病分類に「サルコペニア」が傷病登録され、現在、国内外で注目される用語となっています。
突然ですが、大谷翔平選手。彼のように、全力で生きるとはどういうことでしょうか?
それは、自分自身の身体と健康に全力を尽くし、最高のパフォーマンスを引き出すことを意味します。
しかし、歳を重ねると、我々全員が避けられない自然のプロセスに直面します。
「フレイル」と「サルコペニア」
これらは年齢と共に私たちの身体が経験する変化を表す言葉です。
しかし、大谷選手のように自身の体を大切にし、健康的な生活習慣を維持することで、これらの挑戦に立ち向かうことが可能です。
このブログでは、フレイルとサルコペニアについて解説し、大谷選手のように全力で生きるための具体的なアドバイスを提供します。
年齢を重ねても健康で活力に満ちた生活を送りたいと思いませんか?
自分自身の身体を大切にし全力で生きること、それが最も重要な使命なのです。
「フレイル」と「サルコペニア」という挑戦を乗り越え、自分自身の健康寿命を最大限に伸ばすことがなにより大切です。
フレイル・サルコペニアとは
フレイルとは、加齢に伴い生理的予備能が減少し、種々のストレスに対する脆弱性が亢進した状態と定義されます。
つまり、要介護の前段階と捉えられており、近い将来、介護が必要な状態へ移行するリスクが高い一方、適切な介入によって健常へと改善する可能性を十分に秘めた状態と考えられています。
どちらにも転ぶ可能性があるという点が、フレイルの重要な特性となります。
フレイルには、身体的、心理・精神的、社会的という3つの要素があり、それぞれが互いに関連し合いながら要介護状態を引き寄せると考えられています。
具体的に、身体的フレイルには骨、関節、筋肉などのいわゆる運動器の機能障害が当てはまります。
心理・精神的フレイルには軽度認知機能障害や老年性うつ症状などが該当します。
社会的フレイルには閉じこもりなどが含まれます。
一方、サルコペニアは加齢に伴って骨格筋量の減少および筋力低下を示すものであり、運動器の機能障害である身体的フレイルの一部を構成することになります。
サルコペニアとフレイルはほぼ同義として扱われることが多いですが、フレイルは種々の要素を包含した比較的大きな概念であり、サルコペニアは骨格筋に特化した狭い概念ということになります。
フレイルの診断基準
フレイルの診断基準にはいくつかの基準があります。
ここでは日本版Cardiovascular Health Study尺度として国立長寿医療研究センターにょって推奨されている基準を示します。
1~2項目該当するとプレフレイル、3項目以上該当するとフレイルと判定します。
サルコペニアの診断基準
サルコペニアの診断方法としてAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)の診断基準を用いることが推奨されています。
AWGSの診断基準によると、以下の項目の測定を行い、診断を行います。
- 歩行速度(4m歩行において0.8m/秒未満で低下)
- 握力(男性で26kg未満、女性で18kg未満で低下)
- 筋肉量(「歩行速度」または「握力」で低下が認められた場合実施。男性で7.0kg/m2未満、女性で5.4kg/m2未満でサルコペニアと診断)
しかし、日常生活においてこのような測定は難しいため「指輪っかテスト」によるスクリーニングが有用とされています。
方法は以下の通りです。
- 両手の親指と人差し指で輪を作ります。
- 利き足ではない方のふくらはぎの一番太い部分を力を入れずに軽く掴みます。
隙間ができればサルコペニアの可能性が高いと判断されます。
フレイル・サルコペニアに対する予防の考え方
ここでは、サルコペニアと身体的フレイルを同じ意味として扱い、主にサルコペニアに対する予防についてお話しします。
サルコペニアは、加齢に伴い骨格筋の合成と分解のバランスが崩壊し、分解量が合成量を上回ることで骨格筋量が減少した(萎縮した)状態と考えられます。
つまり、作り出す量よりも使われる量が多くなるということです。
対策として、筋タンパクの合成量を促し、分解量を抑えることが必要となります。
方法として、運動(筋収縮)が最も重要です。
理由は運動を行うことで筋タンパクの合成が促進し、分解が抑制すると考えられているからです。
ただし、運動効果を十分に発揮するためには、適度に栄養補給が行えている必要があります。
フレイル・サルコペニアの方は、タンパク摂取量が減少しているため、運動を実施してもその効果が十分に反映されない場合があります。
そのため、フレイル・サルコペニアの方は、運動と栄養補給の両方を考えることが望ましく、タンパク質(アミノ酸)摂取を促しながらレジスタンストレーニングを実施することが理想とされます。
フレイル・サルコペニアに対するレジスタンストレーニング
フレイル・サルコペニアの方がレジスタンストレーニングを実施する場合、低負荷であっても骨格筋機能が向上すると言われています。
負荷量はやや抑えていても、十分な回数を担保することによって、高負荷トレーニングと同等の効果が得られるのです。
なお、レジスタンストレーニングは骨格筋機能の向上に有用となりますが、トレーニングを中止するとその効果は減弱します。
つまり、ある程度の休息期間後にはトレーニングを再開させる必要があり、このようなことを考えた場合には、一定期間の集中的なトレーニングというよりは永続的に実施できるようなトレーニングを選択する必要があると考えられます。
フレイル・サルコペニアに対する運動と栄養補給
フレイル・サルコペニアの方に対しては、運動と栄養補給の両方を行うことにより骨格筋機能の向上に有用となります。
先行研究をまとめると運動と栄養補給の両方を行うことにより、筋力増強および骨格筋量増加効果は、運動単独と比べて高く、フレイル・サルコペニアの方に対して有用な介入方法であることが分かりました。
さらに興味深いのは、運動単独では効果が不十分となるケースがあるということです。
つまり、フレイル・サルコペニアの改善を目的とした場合には、運動と栄養補給の両方を行うことが必要になるのです。
まとめ
フレイル・サルコペニアについてお分かりいただけましたか。
ここでは、以下の点について解説してきました。
- フレイル・サルコペニアとは
- フレイルの診断基準
- サルコペニアの診断基準
- フレイル・サルコペニアに対する予防の考え方
- フレイル・サルコペニアに対するレジスタンストレーニング
- フレイル・サルコペニアに対する運動と栄養補給
フレイル・サルコペニアという言葉を知っていた方も知らなかった方も、理解できたのではないでしょうか。
フレイル・サルコペニアを予防するためには、若い時に筋力を最大化し、成人期にはそれを維持する。
そして高齢期には筋力低下を最小限に抑えることが良いと言われています。
したがって、若年期(学齢期)にスポーツ・運動へ積極的に参加し、成人期にも可能な限りスポーツ・運動への参加を維持し、そして高齢期にもその習慣をできるだけ失わないことが大事です。
すなわち、サルコペニアの予防には、高齢期だけではなくライフコースを通じての運動と栄養補給が必要となります。
しかし、これを読んでくれている読者の方は40代以降の方が多いと思います。
安心してください。
この考え方を知った今日が一番若い日です。
筋力はいくつになってもトレーニングで向上させることができるのです。
しっかり、ご飯を食べて運動をしましょう。レジスタンストレーニングをしましょう。
それが、冒頭でもお話しした「自分自身の身体を大切にし全力で生きること」に繋がるのです。
いくつになっても自分らしく生きるために、今から準備していこうではありませんか。
【参考・引用文献】
フレイル・サルコペニアとライフコースを通じての運動
フレイル・サルコペニアと理学療法
フレイル・サルコペニア
高齢者のフレイルと予防理学療法